初めてやったゲームの話

 私の初めてのゲームは、同じく初めての海外旅行と同時に訪れた。2003年 グアム、ハイアットリージェンシー スカイラウンジでのことだ。
 日も高いうちから酒を煽る両親は、まだじっとはできないインポ少年に1つのゲーム機と、1本のゲームソフトを与えた。
 まだ発売されたばかりの本体と、時間をかけて育てたデータを消してまで息子に渡した父の決断は計り知れない。彼は自分の手で苦楽を共にしたモンスターたちを消去し、そして世代を継がせたのである。賢明な読者諸氏はタイトルをお分かりのことだろう。

 「ゲームボーイアドバンスSP」、そして傑作と名高い「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド」である。

 いまポケモンだと思ったオタクどもは反省してほしい。最初にポケモンに触れるような家庭ならこんなに歪んだクソオタクに育っちゃいないのである。
 もちろん5歳の少年、しかもゲームをやったことがない子どもには難しいソフトだった。しかし神童であった (神童だったんですよ、いやほんとに) 私はなんなくゲームのルールを飲みこみ、瞬く間にいくつかの旅の扉をクリアした。
 「ぼうけんたん」とは何を指すのか不明。「しもふりにく」の「しもふり」がなんなのかもわからない。「たてごと」とはいったい何なのかも知らなかった。
 しかしそれがモンスターを勇敢にするアイテムであることは把握し、もっともモンスターを仲間にしやすい肉であることを覚え、 たてごとを使ってレベルを上げ続ける。新たな扉をくぐる前には貯め込んだゴールドでありったけのやくそうとキメラのつばさももんじゃのしっぽを買い込み、MPの温存と殲滅の速度を天秤にかけ、旅のしおりでこまめに保存することを忘れない。そういうプレイを覚えた。

 テリワンは少年だったインポを、一介のゲーマーに変えてしまったのである。滞在を終えて日本の土を踏む頃には、他国のマスターから奪ったグラコスやゴールデンゴーレムを従え、配合を繰り返して作り上げたグレイトドラゴンを傍らに、ほしふりの大会を勝ち抜く立派なモンスターマスターとなっていた。

 

 時は流れ2017年。私はペンではなく剣を、参考書ではなく銃を、赤本ではなくマウスをその手に取る。それはかつてぼうけんたんであり、しもふりにくであり、ぎんのたてごとだったものだ。時が経とうとも、私に息づくゲーマーの血がそうさせる。だから私は今日も戦場に赴く。これは逃避ではない、使命なのだ。